自己破産を申立てて破産手続きが開始すると、一定期間、特定の職業に就くことができなくなります。
これを、自己破産による「職業制限(資格制限)」といいます。破産法に職業制限の規定がある訳ではなく、各職業についての各種法令で個別に定められています。
そのため、破産手続開始決定後は資格の登録ができなくなったり、開始決定時に得ていた資格が失われることがあります。
もっとも、資格制限は一生続くわけではなく、免責許可決定が下りるなどの一定の条件を満たせば元通りに働くことができます。
制限されているもの以外の職業については、自己破産の手続きを開始しても、原則今まで通り続けることができます。
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制限される職業や資格
以下では、具体的な職業名を挙げながら解説していきます。
・弁護士、司法書士、行政書士などの士業
弁護士、弁理士、司法書士、土地家屋調査士、不動産鑑定士、公認会計士、税理士、行政書士、通関士、宅地建物取引士など
なお、宅地建物取引士が自己破産した場合は、届出の義務があります。
・一部の公務員
公務員のうち、一部の公務員には職業制限がかかります。全ての公務員が対象という訳ではありません。
人事院の人事官や、教育委員会の教育委員、公正取引委員会の委員などは、法令によって退職させられることなります。また公正取引委員会は、罷免になることがあります。
・商工会議所・信用金庫などの団体の役員
日本銀行・商工会議所・信用金庫・その他金融商品取引業・労働派遣業などの役員は、解任されます。
・上記以外の業種でも会社役員は退任
会社の取締役・執行役員・監査役などは会社と委任関係にあり、自己破産によりその委任契約は終了します。そのため、会社役員が自己破産した場合には、役員を退任することになります。(民法653条2号)。
その他の職業一覧
上記の他にも、
- 貸金業者の登録者
- 生命保険募集人
- 質屋を営む者
- 割賦購入あっせん業者の役員
- 警備業者の責任者や警備員
- 旅行業務取扱の登録者や管理者
- 建築業を営む者
- 下水道処理施設維持管理業者
- 風俗業管理者
- 廃棄物処理業者
- 調教師・騎手
などが、対象となっています。
認知症や知的障害などが原因で判断能力がない(不十分な)人を守るために、民法には成年後見制度というものがあります。
後見人(保佐人・補助人)は、判断能力がない(不十分な)人に代わって契約の締結・取消し、財産管理などを行う役割を担います。
この成年後見人(保佐人・補助人)にも、破産者はなることができないとされています。
また遺言の内容を実現する役割を担う「遺言執行者」も、なれません。
・破産で職業制限を受けてから、復権までの期間
自己破産すると破産者の氏名が官報(国が国民に周知させるべき事項を知らせるために毎日発行している公告文書)に掲載されます。
一般の人が官報に目を通すことは少ないですが、自己破産による職業制限の対象となっている職場では、官報をチェックしている場合もあります。
職業制限の対象となっている職業に就いている方は、トラブルを避けるためにも、自己破産をしたら速やかに職場に報告しましょう。
申立てから免責許可決定まで、3~6ヶ月程度かかる
職業制限を受ける期間は、ほとんどの場合免責許可決定が下されるまでとなっています。申立てから免責許可決定が下りるまでの平均期間は、3~6ヶ月程度です。
免責不許可の場合でも、その後何事もなく10年間が経過すれば、自動的に復権できるとされています。
自己破産の職業制限から復権するには?
復権とは、自己破産による職業制限がなくなって元通り働けることを意味しています。
復権には、当然復権と申立てによる復権の2種類があります。
- 一定期間が過ぎることにより、当然(なにもしなくても)に職業制限がなくなる当然復権
- 破産したひとが、裁判所に申立てることにより職業制限がなくなる、申立てによる復権
「免責許可決定による(当然)復権」
もっとも多いのが、免責許可決定が確定して復権するケースです。
復権後に再び、元の職場に就くことが可能です。
「申立てによる復権」
財産により債権者に完済するなどして、債務がなくなった場合に、裁判所に復権を申立てるというもので、珍しいケースです。
免責不許可決定が下された場合
免責不許可となった場合には、以下のいずれかの場合に復権できるとされています。
- 個人再生計画の許可決定が確定したとき
- 破産手続き開始決定後、破産法第265条の罪について有罪の確定判決を受けることなく10年を経過したとき
もし個人再生ができなかった場合でも、破産法上の犯罪で有罪になることなく10年間経てば、自動的に復権できます。
免責許可決定を受ける、個人再生計画が許可される、破産手続開始決定から10年間が経過するなどして「復権」すると、再び元の職業に就くことが可能となります。
会社が自己破産を理由に解雇するのは禁止されています。万が一、自己破産を理由に解雇された場合には、違法な不当解雇にあたると主張しましょう。
その他、自己破産の手続きについてわからない点や困ったことがあれば、早めに弁護士や司法書士に相談しましょう。